グリーンインフラ・ウォッチ

グリーンインフラにおける土壌・基盤材の選定基準と技術:機能性と持続可能性を両立する設計の要点

Tags: グリーンインフラ, 土壌, 基盤材, 設計, 施工, 雨水管理, 持続可能性

はじめに

都市におけるグリーンインフラの導入は、雨水管理、ヒートアイランド緩和、生物多様性の保全、景観向上など、多岐にわたる効果をもたらすものとして広く認識されています。これらの機能を発揮する上で、植物の生育を支え、様々な環境機能を担う土壌や基盤材は、いわばグリーンインフラの根幹をなす要素と言えます。適切な土壌・基盤材の選定と設計は、グリーンインフラの成功に不可欠であり、その長期的な性能維持に大きく影響します。

本記事では、グリーンインフラにおいて土壌・基盤材が果たす役割を明確にし、専門家が実践的な設計・施工を行う上で考慮すべき選定基準、主要な材料の種類とその特徴、および設計・施工上の技術的な要点について解説します。都市開発に関わる技術者の皆様が、機能性と持続可能性を両立させたグリーンインフラを実現するための一助となれば幸いです。

グリーンインフラにおける土壌・基盤材の役割と機能

グリーンインフラにおける土壌・基盤材は、単なる植物の支持体にとどまらず、多様な環境機能を担っています。主な役割と機能は以下の通りです。

これらの機能を最大限に発揮するためには、グリーンインフラの種類や目的に応じて、適切な物性を持つ土壌・基盤材を選定する必要があります。

土壌・基盤材の選定基準

土壌・基盤材を選定する際には、以下の基準を総合的に考慮することが求められます。

  1. 目標機能への適合性:
    • 雨水管理: 高い透水性と適切な保水性の両立が求められます。透水係数は、雨水浸透施設では一般的に10⁻² cm/s以上、植栽地では10⁻³ cm/s程度が目安となります。
    • 植栽生育: 植栽の種類(樹木、草本、コケ類など)や要求される生育速度に応じた適切な物理性(粒度分布、密度、通気性、保水性)、化学性(pH、EC、養分レベル)が必要です。特に屋上緑化などの制限された空間では、軽量性と十分な生育層厚の確保が課題となります。
    • 水質浄化: 有機物含有量、CEC(陽イオン交換容量)、粘土鉱物の種類などが浄化能力に影響します。
  2. 持続可能性:
    • リサイクル材・未利用資源の活用: 建設発生土、植物残渣由来の堆肥、コンクリート廃材や瓦を破砕・加工した骨材、製鉄スラグ、石炭灰などが基盤材として活用されています。これらを活用することで、天然資源の消費を抑制し、廃棄物削減に貢献できます。ただし、有害物質の溶出がないことを確認する必要があります。
    • 環境負荷の低減: 製造プロセスや長距離輸送に伴うCO2排出量の少ない材料を選択することが望ましいです。
  3. 経済性:
    • 材料費、運搬費、施工費を含めたトータルコストで評価します。リサイクル材は安価な場合がありますが、品質管理や処理費用に注意が必要です。
  4. 施工性:
    • 現場での運搬、敷き均し、締め固め作業のしやすさも重要な要素です。適切な含水比での施工が必要です。
  5. 耐久性:
    • 長期的な物理性(構造安定性、圧縮性、凍上抵抗性)、化学性(pHや養分レベルの安定性)の劣化が少ない材料を選定します。特に凍結融解の厳しい寒冷地や、乾燥・湿潤を繰り返す環境では、材料の耐久性が重要になります。

代表的な土壌・基盤材の種類と特徴

グリーンインフラに用いられる土壌・基盤材は多様であり、それぞれの特徴を理解することが重要です。

設計・施工上の考慮点

適切な土壌・基盤材を選定した上で、グリーンインフラの機能設計と施工を適切に行うことが重要です。

まとめ

グリーンインフラにおいて、土壌・基盤材は植物の生育を支えるだけでなく、雨水管理、水質浄化、温度緩和など多様な環境機能の鍵を握る要素です。機能性、持続可能性、経済性、施工性、耐久性といった多角的な視点から最適な材料を選定し、目的機能に応じた層構造設計や施工管理を徹底することが、グリーンインフラの成功、ひいては持続可能な都市開発の実現につながります。

今後、気候変動の進行や都市の複雑化に対応するため、より高性能で持続可能な土壌・基盤材の開発や、IoT技術を活用した土壌環境のモニタリング技術の進化が期待されます。技術者の皆様には、これらの知見を積極的に活用し、グリーンインフラのさらなる普及と効果向上に貢献していただきたいと思います。